景気回復しても賃金が上がらない理由

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 「景気は回復している」という声はよく聞かれますが、「賃金はそんなに増えていない」と感じている人も多いのではないでしょうか。企業の業績が回復しているにもかかわらず、私たち労働者全体の賃金が上がらない理由をわかりやすく解説します。

1.景気回復と景気の現状

現在の日本経済は、戦後2番目の景気回復局面にあります。そして2019年1月まで続けば、「戦後最長の景気回復」となります。アベノミクスや、日本銀行による大規模な金融緩和(異次元緩和)などの効果もあり、回復傾向が続いています。
では、直近の経済指標で景気の現状を見てみましょう。

1-1.GDP(国内総生産)

GDPは、国の経済規模を測るものさしで、GDPの増加率を経済成長率といいます。2017年10~12月の実質GDP(改定値)は、物価変動を除いた実質で前期比0.4増、年率換算で1.6%増でした。このプラス成長は8四半期連続です。

1-2.日銀短観

日銀短観(日本銀行の全国企業短期経済観測)は、国内景気の現状を掴むために日銀が四半期ごとに実施している経済調査のことで、対象企業数が1万社超と多く、速報性も高いので、信頼性が高い指標です。2018年3月の日銀短観では、企業の景況感を示す「業況判断指数(DI)」は、大企業製造業でプラス24と、前回2017年12月調査から2ポイント悪化しました。

しかしながら、前回調査までは5四半期連続で改善が続いていました。大企業非製造業でもプラス23と、前回調査よりは2ポイント悪化しましたが、悪化は6四半期ぶりです。日銀短観で見ても、景気は中期的には改善傾向が続いているといえます。

1-3.完全失業率・有効求人倍率

完全失業率や有効求人倍率など、雇用関連指標は絶好調といえます。2018年2月の完全失業率は2.5%と非常に低くなっており、これはバブル期に迫る水準です。また、2018年2月の有効求人倍率は1.58倍と、こちらも極めて高くなっています。就業者数(勤めている人の数)は6,578万人と前月比151万人増で、5年2カ月連続で増加しています。

このように、雇用自体は「完全雇用」に近い状態といえます。「人手不足」のニュースを聞いたことがある人も多いでしょう。特に「建設」、「介護」、「外食」、「運輸」などの産業では、深刻ともいえるほどの人手不足になっています。つまり今の日本は、「業種の希望がなければ、どこでも働ける」状態なのです。

1-4.内部留保

景気回復が続いているにもかかわらず、企業の内部留保は積み上がっています。内部留保とはひとことでいえば「企業のたくわえ」です。財務省の法人企業統計(2017年10月~12月)によると、企業の現金・預金は約196兆円にまで膨れ上がっています。

リーマン・ショック時に発生した金融機関による「貸し渋り」の恐怖を、企業は未だに忘れていません。そのため、多くの企業には「いざという時に頼れるのは自分だけ」という考えが少なからずあり、「現預金を使わず、ためておく」という保守的な行動が取られがちです。その結果、内部留保はほぼ一貫して増加傾向が続いています。

2.賃金の実態

では、賃金の実態はどうなっているのでしょうか。詳しく見てみましょう。

2-1.名目賃金指数、実質賃金指数、消費者物価指数

名目賃金とは、私たち労働者が受け取る賃金そのものです。これに対し、実質賃金とは、名目賃金に物価の影響を考慮したものです。日本の名目賃金指数の推移を見てみると、平成金融危機が勃発した1997年頃から一貫して低下傾向にあります。近年、やや持ち直しているものの、依然低い水準です。

労働者は一般的に、実質賃金よりもこの名目賃金を重視する傾向があります。大雑把なたとえですが、名目賃金が300万円、物価上昇率が3%で、実質賃金が291万円となる場合と、名目賃金が295万円、物価上昇率がゼロ、実質賃金も295万円となる場合では、(名目賃金が高い)前者の方が「景気が良い」と感じる傾向にあります。
では、実質賃金指数はどのように推移しているでしょうか。

実質賃金指数も、この20年程度、概ね緩やかに低下しています。そして、消費税増税があった年は一時的に消費者物価が上昇するので、実質賃金指数も大きく低下しています。名目賃金同様、近年、やや持ち直してはいるものの、依然低い水準にあるといえます。

2-2.正規雇用・非正規雇用別に見た賃金の現状

ここ数年、パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員など、いわゆる非正規雇用の賃金自体は若干ですが上昇傾向にあります。牛丼チェーンやファストフードのバイト募集の貼り紙で、時給の高さに驚いた人も多いのではないでしょうか。しかしながら、正規雇用の賃金はさほど上昇しておらず、結果、全体の賃金もあまり上昇していないのが現状です。

3.賃金が上がらない理由

では、なぜ賃金は上がらないのでしょうか。その理由を考えてみましょう。賃金が上がらない理由は、主に次のようなものが考えられます。

3-1.企業の売り上げが伸びていない

ここ1~2年こそ最高益を更新する企業が多く見られるようになりましたが、リーマン・ショック以降数年間、企業の業績は全般に伸び悩んでいました。業績が悪いと当然ながら、賃金も増えません。

3-2.業績回復も、後ろ向きの要因が主因

もちろん、業績が回復している企業も多くあります。しかしながらそれらに企業の多くは、売上高増加によるものではなく、コスト削減(人件費削減等)という後ろ向きな要因によるものでした。これではやはり賃金は増えません。

3-3.労働分配率の問題(上昇してこない)

企業が、利益のうちどのくらい人件費に回すかという労働分配率の問題もあります。
一般に労働分配率とは、付加価値額(経常利益、人件費、減価償却費、支払利息等)に対する賃金の割合で表します。大企業の労働分配率は近年停滞しており、概ね40%台で推移しています。

中堅・中小企業の労働分配率も同様に停滞しています。人手不足もあり人件費自体は増加していますが、利益の回復ペースが人件費の伸びより劣っているといえます。

3-4.可処分所得の減少

人口減少・高齢化などを背景に、税金や社会保険料の負担は増えています。このため、可処分所得が増えない、あるいは減少するため、消費が増えないという側面もあります。

3-5.デフレスパイラルの影響

リーマン・ショック以降、日本は長い間「デフレ」に苦しんでいました。デフレとは、物価が持続的に下落する状況のことです。デフレが続くと、消費者は「もう少し待てば、さらに物価が下がって安く買えるのではないか」と財布のひもを固く締める、いわゆる「買い控え」が起きます。

その結果、企業の売上が減少し、先ほどの「3-1.企業の売上が伸びない」につながり、企業に勤める従業員の賃金が増えません。従業員(=労働者)は消費者でもあるので、さらに買い控えします。この「負の循環」のことを「デフレスパイラル」といいます。現在の賃金の伸び悩みには、このデフレスパイラルの影響も少なからずあるといえます。

3-6.非正規雇用の増加

近年日本では非正規雇用者が増加しました。正規・非正規格差は社会問題にもなっています。正規雇用者と比べると賃金の低い非正規雇用者の増加は、全体の賃金を押し下げます。

また、主に定年退職者(=正規雇用者)が退職後に非正規雇用者に移行することによっても非正規雇用者は増加します。これも一因といえるでしょう。
もちろん、賃金が上がらない理由は他にもあるでしょう。さまざまな要因が複雑に絡み合って現在の状況になっているものと思われます。

4.アメリカなど諸外国との比較

アメリカ、ユーロ圏など欧米と比較してみると、日本の賃金上昇率の実態は深刻といえます。
アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなど主要先進国は、物価があまり上がらないという点は日本と変わりませんが、ここ20年程度で見てみると、少なくとも名目賃金上昇率は物価上昇率と同水準あるいはそれを上回る傾向にあります。名目賃金指数の推移を時系列に見ても、アメリカやユーロ圏に大きく引き離されているのが現状です。

5.今後の展望

今後の賃金の動向を予測することは難しいですが、日本が人口減少・高齢化など解決が難しい構造的な問題を抱えている以上、外部要因で企業業績が劇的にでも好転しない限り、名目賃金上昇率の伸びは低い状態が続くのではないでしょうか。

これだけの超低金利化でも設備投資がさほど活発化しない現状では、ここから先の企業業績の大幅な伸びは望みにくく、結果、労働分配率の大幅な上昇も難しいと思われます。さらに、2019年の消費税増税や現在の米中の貿易戦争など、リスク要因もたくさんあります。残念ながら、悲観的に考えておいたほうがよいでしょう。

6.まとめ

見てきたように、テレビや新聞の「景気回復」の報道と、私たちの「実感」にはひらきがあります。これが「マクロ」と「ミクロ」の違いです。

景気が回復しても賃金が上がらない理由を正確に理解し、経済・金融環境の変化に敏感でいれば、今後のライフプランを豊かにでき、リスクに正確に対応することが可能になります。忙しい日常に埋没せず、マクロの動向にも常に関心を持っていたいですね。

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