パラダイス文書で明らかになる租税回避の実態とタックスヘイブン税制

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パラダイス 島

1.パラダイス文書とは

パラダイス文書とは、法律事務所など複数の組織が手掛ける、租税回避地であるタックスヘイブンへの法人設立についての情報が記載された内部文書のことをいいます。
簡単には、タックスヘイブンでペーパーカンパニーを設立し、そこへ資金を流すことによって租税回避行為を行っている会社や人物が記載された文書です。

1-1.舞台になった国と法律事務所

法人設立を行う代表的な法律事務所として「アップルビー」があります。アップルビーは英領バミューダ諸島を発祥とし、世界10か所のタックスヘイブンに事務所を構えています。
そこで依頼に基づき、多くのペーパーカンパニーの設立が行われているのです。

1-2.掲載人物

パラダイス文書には日本企業や日本人の名前も記載されていました。報道によると1,056件にもなるそうです。現在、名前が挙がっているのは主なところでは次の企業と個人です。

企業

  • 丸紅
  • 住友商事
  • 日本郵船・大阪ガス
  • 三井住友海上火災保険
  • ソニー生命保険
  • ソフトバンクグループ
  • 東京電力
  • KDDI
  • UHA味覚糖

個人

  • 鳩山由紀夫(元内閣総理大臣)
  • 鳥山明(ドラゴンボール作者)

1-3.文書のダウンロード

タックスヘイブンに関わる情報は、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)のウェブサイト「Offshore Leaks Database」で公開されています。

【外部サイト】Offshore Leaks Database

このデータベースでは、顧客の国ごと、租税回避地ごとに検索可能で、各書文書を含めた約50万件(2017年11月時点)の個人・法人のデータが掲載されています。個人の名前と住所も登録されており、本来は機密文書であることが伺えます。

本データは、Open Database Licenseの基に提供されており、自由にダウンロード可能です(2017年11月時点、Windows版:約224MB)。
Neo4jというグラフ型データベースで構成されており、それぞれの企業・個人との関係がグラフィカルに描かれます。
現時点では、パラダイス文書の内容はまだ含まれておらず、近日中に予定となっています。

2.パラダイス文書とパナマ文書の違い

今回のパラダイス文書の前に、パナマ文書というものが大きく話題となったのを覚えていますでしょうか。似たような名称の両者ですが、何が違うのでしょうか。

パラダイス文書は、2017年11月に発表された、タックスヘイブンに法人を設立している複数の法律事務所などが持っている顧客リストやその関連情報です。
パナマ文書は、2016年4月に公表された、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」によって作成された租税回避行為に関する機密文書です。
両者の決定的な違いは、パラダイス文書は複数の組織から漏れた情報、パナマ文書は1つの組織から漏れた情報であるという点です。
そのことから、パラダイス文書の情報量の大きさが分かります。

3.タックスヘイブンとは

タックスヘイブンとは「租税回避地」、すなわち、税金がほとんどか全くかからない国、地域のことです。本国では多額の税金がかかるため、税金がかからない国に拠点を移すことで、租税を回避できます。英語で書くと、”Tax Haven”、税金の避難地ですね。

世界にはタックスヘイブンと言われる地域・国が約50か所あります。中でも有名なのが、中部アメリカでは英領ヴァージン諸島、英領ケイマン諸島、英領バミューダ諸島、パナマ、バハマ。ヨーロッパでは、アイルランド、スイス、リヒテンシュタイン。アジアでは、香港、シンガポールです。イギリスやオランダも法人税率が低く、タックスヘイブンとされています。

また、アメリカは連邦税と州税がありますが、州税が非課税となる州があり究極のタックスヘイブンと言われています。

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3-1.なぜ富裕層や企業はタックスヘイブンを利用するのか

個人であればタックスヘイブンに住所を移せばほとんど税金がかからず、法人であれば本拠地をタックスヘイブンに置けば法人税を大幅に節税できます。
多国籍企業の多くはタックスヘイブンに本社を置き、各国に子会社を置きます。そして子会社の利益はタックスヘイブンの本社に集中するようにしておきます。そうすることにより、出た利益はタックスヘイブンにて課税されることとなり、非常に低い法人税で済み、資金を内部留保することができます。

個人資産家であれば、タックスヘイブンに移住し居住者となることで、本国の重い課税を免れることができます。
また、相続税対策においてもタックスヘイブンは非常に大きなメリットがあり、相続税率の低い国に移住しておくことによって、相続が発生した際にも相続財産に対して大きな相続税を取られずに済みます。

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3-2.タックスヘイブンは脱税ではないのか?

タックスヘイブンに利益を移すことで、国内で本来納めるはずであった税金を免れるという行いは、脱税ではないのか?と思われるかもしれません。
脱税とは、納める義務がある税金を意図的に納めない行為及び納めるべき税額より少なく納める行為をいいます。

しかし、タックスヘイブンにより租税回避行為は、倫理的に問題があるということは否めませんが合法であり脱税ではないのです。
それは、通常において個人がどこに住むか、法人がどこに本社を置くかなどは自由です。そしてそこで得た利益は、その国の法律に従い課税されます。その国の税率が低かろうと無税であろうとそれは関係ありません。その国の法律に従ってさえいれば全く問題ないのです。

3-3.タックスヘイブンの問題点とは

タックスヘイブンは合法ではありますが、次のような問題点があります。

3-3-1.本来徴収すべき税金が徴収できない

企業は、社会にある様々なインフラを利用して売り上げをあげ、利益を得ています。この利益に課される法人税は、そのインフラ使用料の意味も含めて徴収されているのです。
それにもかかわらず、自国で得た利益を何らかの方法によりタックスヘイブンに移し、自国での課税を免れるという行為は、多額の税金が投入されているインフラを無料で使っていることになります。

また、個人の場合においても、資産をタックスヘイブンに移されてしまうことにより、相続税などを免れることができます。
当然、この負担は間接的に他の納税者にのしかかる可能性があります。タックスヘイブンはまさに税金のブラックホールと言えるでしょう。

3-3-2.一般国民の税負担増大

大企業や富裕層がタックスヘイブンに逃げていくことは、自国にとって大きな損失です。その為、各国は法人税や相続税などを下げることによって対策を取り、その減った税収の負担は間接的に他の納税者にのしかかってくるのです。

どのようにして減った税収を補うか、それは一般国民に大きく関係する消費税です。消費税増税の大きな名目は社会保障の充実とされていますが、消費税は効率的に大きな税金をとりやすく、タックスヘイブンで失った税収を補うという側面もあるのです。

一方、タックスヘイブンとなっている国や地域では、多くの企業や資産家が財産を移してくるため富が集中し経済的に潤います。小国にとっては何もせずとも外国人が富をもたらしてくれるのであり、まさにお金の天国とも言えます。
日本企業がケイマン諸島へ行っている投資残高は63兆円で、仮にこれに消費税と同じ8%を課税すれば、5兆円もの税収が得られ、それは消費税の2%に相当します。

一般国民の多くは源泉徴収により強制的に税金を納めますので、租税回避行為はできません。このように、タックスヘイブンの国々と、租税回避行為を行っている一部の大企業と富裕層に富がもたらされ、それ以外の一般国民は増税で苦しむことで、富の格差が拡大されていってしまいます。

4.日本における対抗策

個人資産家などの富裕層や大企業が、タックスヘイブンによる租税回避行為を行うことは、利益が生まれた本来の国に、もたらされるはずであった税収が失われることに繋がります。当然これらの国々が黙っているはずもなく、タックスヘイブンを悪用し、利益を移動させない為の対策方法を考え出しています。これを、タックスヘイブン対策税制といいます。

4-1.タックスヘイブン対策税制とは

日本には、外国子会社合算税制(通称、タックスヘイブン対策税制)という税制があります。
これは1978年に作られた税制で、タックスヘイブンにある50%超の株式等を所有する子会社(外国関係子会社)で、そのタックスヘイブンにおける税負担割合が20%未満(いわゆる、トリガー税率)である子会社(特定外国子会社等)については、その所得を日本にある親会社の所得と合算して課税してこうという税制です。

もちろん、タックスヘイブンに子会社を設立しただけで、必ず合算されるという訳ではありません。租税回避目的ではなく、子会社としてきちんとした営業実態があるのであれば、所得合算されることはありません。
その判断基準として次の適用除外基準が設けられています。全てを満たす場合には、タックスヘイブン税制は適用されません。

  • 事業基準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)
  • 実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること)
  • 管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)
  • 次のいずれかの基準
    ①所在地国基準 (主として本店所在地国で主たる事業を行っていること)
    ※主たる事業が下記以外の業種の場合に適用
    ②非関連者基準 (非関連者との取引割合が50%超であること)
    ※主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業の場合に適用

【引用】財務省:外国子会社合算税制の概要

4-2.平成29年度税制改正

平成29年度税制改正において、タックスヘイブン対策税制は抜本的な見直しが行われました。平成30年4月1日以後に開始する事業年度から、この改正が適用されます。
それではどのような改正があったのでしょうか。主な改正項目を簡単に確認していきましょう。

  • 合算対象になる子会社の判定方法見直し。(租税負担割合基準であるトリガー税率20%が廃止されます。)
  • 適用除外基準の見直し。(経済活動基準へ名称変更し、新たな定義付けが行われます。)
  • 部分合算課税対象となる所得範囲の見直し。(資産性所得から受動的所得となり、範囲が拡大します。)
  • 特定の外国子会社等に対する課税合算。(ペーパーカンパニーなどの特定の外国子会社等に該当する場合には、税負担割合が20%以上であっても合算対象となります。ただし、30%以上の場合は除きます。)

4-3.個人に対するタックスヘイブン対策税制

タックスヘイブン対策税制は、法人向けの税制のように感じてしまいがちですが、実は個人が株主となりタックスヘイブンに子会社を設立した場合にも適用されます。
税制の対象となってしまった場合には、その特定の外国子会社等の各事業年度終了の日翌日から2カ月を経過する日の属する年分の雑所得として、株主である個人が日本で所得税を課されることになります。

4-4.対策税制により租税回避行為は阻止できているのか

完璧に阻止できている、とは絶対に言い切れない状況です。
タックスヘイブン対策税制の非常に難しい点は、タックスヘイブンに設立された子会社が、不当な租税回避目的の為だけに設立された会社であるということを、何をもってして正確に判断するのかということです。

この為に、上記でお伝えした要件が設けられているのですが、どうしても形式的なものになってしまい、抜け道の余地が出来てしまうのです。税制改正はこの余地を塞ぐために行われ続けるのですが、その度に税制の穴を突く競争が今後も続くことでしょう。

5.まとめ

パラダイス文書が世の中に出たことで、どれだけ多くの富裕層の人々が、タックスヘイブンを利用した租税回避行為を行っているかが明らかになりました。公表された実名の中には、誰もが知っている名だたる人ばかりです。

課税は公平でなければなりません。これは税法における大原則なのです。
今後も行われ続ける税制改正によって、対策税制がより完璧なものになっていくことを祈るばかりです。

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